表情認識データセットの代表的な分類:Controlled と In the Wild
- Haruka Asanuma
- 9月16日
- 読了時間: 3分
初めまして、2024年10月からQuixotiksでインターンをしている浅沼です。 これまでリサーチ業務に携わってきましたが、そのサーベイ内容をこれから記事にして共有していきたいと思います。
第一弾の今回は、人工知能が人間の表情を感情ラベルに分類するために使う「表情認識データセット」についてです。データセットには画像か動画かといった分類方法もありますが、今回は特にその性質を決定づける「Controlled」と「In the Wild」という2つの重要な違いに焦点を当てて解説します。
表情認識データセットの「2つの種類」
AIが表情を学ぶためのデータセットは、その作られ方によって大きく2種類に分けられます。それは、「管理された実験室」で作られるデータと、「ありのままの日常」から集められるデータです。これらをControlledとIn the Wild (Uncontrolled)などと呼びます。
Controlled: 背景や光、ポーズが決められている。作る表情も研究者側から指定されている。
In the Wild: 背景も状況もバラバラで、自然な瞬間が切り取られている。
それでは、それぞれの特徴と、代表的なデータセットを見ていきましょう。
Controlledの世界:管理された実験室での表情
Controlledデータセットは、研究者が用意した画一的な環境下で、参加者に特定の表情をしてもらって撮影したものです。
特徴:
背景は白やグレーの無地
被験者はカメラの正面を向いている
「笑ってください」といった指示に基づく演技表情
照明などの条件が一定でノイズが少ない
代表例: CK+ (The Extended Cohn-Kanade Dataset)
✅ メリット:
データが非常にクリーンで、表情と顔の筋肉の動きの関係など、基礎的な研究に適しています。
ラベルの精度が非常に高いです。
❌ デメリット:
あくまで演技の表情なので、私たちが日常で見せる自然な感情表現とは乖離があります。
このデータだけで学習したAIは、リアルな世界の多様な表情に対応するのが難しいです。
In the Wildの世界:日常での表情
Controlledデータセットの限界を超えるため、現実世界からデータを集めようという動きから生まれたのがIn the Wildデータセットです。
特徴:
映画、テレビ番組、YouTubeなど、様々な映像から切り取られる
顔の向き、光の当たり方、背景が多種多様
演技ではない、自然発生的な表情が豊富に含まれる
代表例: AFEW, DFEW, CAER, FERV39K, MAFW など
✅ メリット:
より実践的で、現実世界で使える表情認識モデルの開発に不可欠です。
隠れた顔、様々な角度、複雑な照明下での認識精度向上に繋がります。
❌ デメリット (課題):
データにノイズ(背景、遮蔽物など)が多く、扱いや学習が難しいです。
「今のは本当に喜びの表情か?」など、感情のラベリングが非常に難しいです。ラベルをつける人と実際に表情を浮かべた人物が異なるため、正しい感情ラベリングができているか不明。
まとめ:データセット早見表
特性 | Controlled | In the Wild (Uncontrolled) |
環境 | 実験室など、管理された環境 | 日常生活、映画、Web動画など |
表情 | 指示された演技表情 | 自然発生的な表情 |
撮影条件 | 正面、無背景、均一な照明 | 様々な角度、複雑な背景、多様な照明 |
データ | クリーンで扱いやすい | ノイズが多く複雑 |
得意なこと | 基礎研究、顔の動きの分析 | 実社会での応用、頑健なモデル開発 |
課題 | 現実世界との乖離 | ラベリングの難しさ |
今回は、表情認識データセットの大きな分類軸であるControlledとIn the Wildについて解説しました。 どちらが良い・悪いというわけではなく、研究の目的に応じて両方のデータセットが重要な役割を果たしています。
次回は、「In the Wild」データセットの歴史について、詳しく掘り下げていきたいと思います。


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